今日家に帰る途中、駅のホームで電車を待っていたら見たことのある顔があって、それがSくんだと気付いた瞬間キュッと心臓が痛くなった。向こうは気付いているのかいないのか、電車に乗り込んだ私の前を通り過ぎて少し離れた同じ列のイスに座った。ううん、私のこと気付いていて気付かないフリをしてるんだって、私は何となく思った。
Sくんは高校の時に私に好意を寄せてくれて、サッカーの試合を見に来て欲しいと誘ってくれた子。先に用事がないことを言ってしまった私は戸惑いながらも試合を見に行き、その帰り道送ってくれたのを同じ学校の女の子が目撃して、翌日には私達が付き合っているという間違った噂が学年中に流れた。それ以来気まずくなってしまって、卒業。大学生になって数年経ってから偶然再開した時に、告白された。その時言ってくれた言葉が、めちゃくちゃ嬉しかった。高校から何年も経っていたのに、まだそんな風に思っていてくれたのか…って。でも迷った挙げ句、断った。天パくんが好きだったから。
高校生の頃、噂が流れなくて2人が気まずくなったりしなかったらどうなっていたんだろう?時々考える。


私が降りる駅に近づいていく時、心の中でずっと「ちゃんと挨拶しよう。普通通り、ちゃんと挨拶しよう。」って呪文のように繰り返した。私は臆病で、ワザと相手に気付かないフリをする悪い癖があるから。
電車が到着して、彼の前を横切って、久しぶりって挨拶出来た。良かった。
彼は地元に戻ってきたらしい。もしかしたらこれから通勤途中に出会うかもしれないし、もう会わないかもしれない。久しぶりに見た顔は大人のそれになっていたけど、細くて人の良さそうな目は変わっていなかったよ。